電車の急病人

その日私は難波から和歌山へ南海電鉄の特急電車に乗っていた。

車内はほぼ座席は埋まっているものの、立っている人はまばらな程度。一時間かかるので早々にイヤホンをはめて目を閉じる。

しばらく寝て、ウツラウツラしたところで周りの慌ただしい雰囲気に目を開けた。

電車は走行中、しかし、斜め向かいのシートの客が立ち上がっている。よく見ると、そのシートに座っているデブなオジサンが、火山のごとく嘔吐していた。

当然周りの客は総立ち。向かいのシートの客も固まっている。オジサンの両隣にいたネイちゃんは、一人は即座に隣車両へ歩いていき、もう一人は持っているポケットティッシュを出してオジサンに渡している。

周囲の客も、持っているポケットティッシュをどんどんオジサンに投げたり、床の嘔吐物に被せている。

そのティッシュの数も追いつかないほど絶賛嘔吐中のオジサン。ボルケーノみたいに口を抑えた両手の隙間から吐瀉物が溢れ出す。

向かいのシート客たちたけでなく、私の座っていたシート(車両の一番端)からもオタクっぽいお兄ちゃんが火山に向かう。何をするかと思えばさらにティッシュをオジサンに被せたり、床に被せたりしている。

そうなると私もいてもたってもいられない。緊急ボタンを押したろか、と思って席を立つ。火山の前を素通りし、車両の真ん中辺りの緊急ボタンを発見。しかし、ここで躊躇。電車を止めるほどか?と

そこに神の知らせのように「間もなく尾崎駅」と次の停車駅が近づいているというアナウンス。

これを聞いてボタンを押すのは止め、停車後すぐにホームの駅員を呼ぶことにした。降りてすぐに「急病人ー!!」と叫ぶと、遠くの駅員と、一番うしろの車両に乗っていた車掌が走ってやってきた。

その後、落ち着きを取り戻した吐瀉物まみれのオジサンは複数の駅員につまみ出され、汚れた車両の応急処置をして電車は駅を出発した(同じ車両の我々は隣車両に誘導、次の駅で清掃員が乗り込んできて本格清掃をしていた)。

今回のケース、どんな立ち振舞いがベストだったのだろう。

少し離れた所にいた私としては、ティッシュを供給するなどの本人への世話は隣近所の客に任せ、私は車掌に知らせるのが一番だったと思う。

ティッシュを投げつける人たちに「車掌を呼んでくる」と伝えて一番うしろの車両まで走る。ひょっとしたら、車両の何処かに通話スピーカーがあったかもしれない。

これが満員で車両の移動が厳しいときはスマホで次の駅に電話するという感じか。。

急病人が重篤な様子(意識がない、痙攣など)の場合は、緊急ボタンを押すべきなのだろうか。

今回、見るからに昼間から飲んだようなオジサンだったので、最初にみたときは「大丈夫か?」より「やれやれやっちまいやがったよ…」という感じだった。嘔吐の原因は不明だけどね。

いずれにせよ、隣合わせたり向かいのお客さんは災難だったと思う。

こう思う俺は優しくないかな?